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債権総論の教科書の決定版

債権総論に関する教科書の決定版になりそうです。

渡辺達徳=野澤正充『債権総論』(弘文堂・2007年)
http://www.koubundou.co.jp/books/pages/30314.html

はしがき1頁(実際はギリシャ数字)にもありますように、この本のスタンスは、

「本シリーズの基本的スタイルは、(中略)1基本的にパンデクテン体系(Pandekten System)に忠実な解説の順序とすること、2個々の条文や制度の趣旨、意義、要件および効果の整理と確認を大切するとともに、主要判例については事案に即して判旨を紹介すること、4活字のポイントを落として、辞書的な用語説明や一歩進んだ議論を行うこと、といった点に集約される」
※なお、原典の本文中の番号は、丸数字。

とされています。
内容も本当にそのスタンスが徹底されており、専門用語の定義、制度の意義、条文の要件、効果の解説が丁寧にされています。
また、著者の見解を披露する本ではなく、条文、判例、通説、立法者意思の解説に徹しており、本当の意味の「教科書」になっていると思います。

特に、判例・学説の対立が激しい、損害賠償の範囲についても、判例に忠実な解説がなされており(92頁以下)、判例ベースで答案を書きたい司法試験受験生にとっては、有益です。

分量も300頁強と債権総論のテキストとして、分厚くありません。そんなに分厚くないので、全体像を見失うことなく、通読できる量だと思います。

要件事実に関する記述は一切ありません。しかし、そもそも要件事実については、要件事実のテキストが多数あるのですから、触れていないことは支障にならないと思います。

学部生はこの本で必要十分でしょうし、法科大学院生で新司法試験を目指される方にとっても、この本で十分ではないかと思います。新司法試験受験生は、民法以外にも勉強しなければならず、かつ、時間は限られています。よって、下手に分厚い本に手を出すよりも、この本を繰り返し読んで、基本に徹した方が、試験等で高得点をとれるように思います。難しい論点を中途半端に知っている人よりも、基本的知識を正確に押さえている人の方が、昨今の国家試験等では強みを発揮すると思います。

もし、この本で足りない部分があれば、分厚い本で調べ、それをコピーするなどして、該当ページにはさみこんでおけばよいでしょう。

これから債権総論を学ぶ人はもちろん、民法を一通り学習した人が知識の整理用にも向いています。勉強がある程度進んでくると、何が基本で何が応用なのか、ごっちゃになる危険がありますが、この本を通読することで、知識の基礎部分と応用部分の整理がつくと思います。

以上、色々と述べてきましたが、私としては、この本を債権総論の教科書の決定版として、ご紹介する次第です。

※ただし、著者自身も認めている(322頁)ように、「契約当事者の地位の移転」だけは、教科書レベルを超えています。これは、執筆担当の野澤先生がその分野の専門家であることに起因します。

by espans | 2008-01-14 05:50  

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