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ブルドックソース事件評釈

法律時報別冊 私法判例リマークス 第37号【2008】下
https://sslserver.sbs-serv.net/nippyo/books/bookinfo.asp?No=3372

その中で、あのブルドックソース事件最高裁「決定」(最決H19.8.7)について、京都大学の北村雅史先生が評釈をお書きになっております(同誌・92頁以下)。
一読しましたが、最高裁決定の論理を丁寧に追い、その問題点を1つ1つ検討されていました。

この決定のポイントの1つは、「新株予約権の無償割当てと、株主平等原則の関係」です。北村先生もその点は解説されています。ただ、解説中、北村先生自身は、株主平等原則の定義や趣旨をどう考えるかについては、あまり触れていません。私自身の考えでは、「株主平等原則」の中身・趣旨(※)は、109条1項の文言から一義的に結論は出ないのではないか、と考えています(現時点の見解)。また、「株主平等原則」をどう考えるかによって、例外として許容されるの範囲も変わってくると思いますので、その点の解説が欲しかったところです。もちろん、北村先生自身も意識されていると思いますが、紙幅の関係上、説明が出来なかったのだと思います。

※ただし、条文の文言が極めて重視された新会社法において、「趣旨からの解釈」が許されるかは、1つの論点でしょう。

「そもそも、株主平等原則とは・・・」という大上段を掲げての論証は、ときとして有害だと思うのですが、一方で、そういう論証もときには必要なのような気もしています。「株主平等原則」に関する論説を最近よくみるようになりましたが、論者によってニュアンスが異なっている印象を受けます。会社法では109条1項で明文化されたにもかかわらず、です。

なお、北村先生は評釈の最後に、
「本事案には、公開買付け開始後の有事導入型で、偶々定時株主総会の時期に株主総会で導入が圧倒的に多数決で決議されたという特殊性があり、本決定の射程範囲は限定されるべきである」(同誌95頁)
と指摘されていますが、その通りだと思います。

ブルドックソース事件決定から、「特別決議があれば原則として何やってもいいんだ」のような粗い読み方をされる方もおられるかもしれませんが、その見解には賛成できません。特別決議の存在は、「必要性」を基礎付ける1要素にすぎないと読むべきではないでしょうか。その意味で、ブルドックソース事件最高裁決定は、「判例」の読み方として、よい素材を提供していると思います。

※追記(2008.7.29)
以上で、「特別決議の存在は、「必要性」を基礎付ける1要素にすぎない」と書きましたが、これは書きすぎと後で思いました。決定文では、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては,最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ,株主総会の手続が適正を欠くものであったとか,判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり,虚偽であったなど,判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,当該判断が尊重されるべきである」と述べています。このことからすれば、株主総会の特別決議があることはやはり大きな要素であったとみるべきでしょう。その意味で、必要性判断の1要素とする私の見解は、決定文の読み方として、「誤読」だったように思い、見解を訂正します。
ただ、株主総会の特別決議は、必要性の要件判断との関係で意味を持つものであり、株主総会の特別決議存在=新株予約権の発行OK、とはいかないことには変わりがないと思います。

by espans | 2008-07-28 19:48  

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