任意捜査の限界-大阪地裁平成18年9月13日判決

平成19年度重要判例解説を読んでいたら、興味深いケースが(長沼範良先生の「刑事訴訟法判例の動き」の186頁で紹介されているものであり、事件自体の解説はなし)。

大阪地判H18・9・13判タ1250号339頁LEX/DB28135449
「3 違法収集証拠の主張について
(1)本件で捜査機関がとった捜査方法は,荷送人が宅配便業者に配送を依頼し,業者の運送過程下にある特定の荷物について,これを短時間借り出し,内容物の射影を観察するためにこれをエックス線検査にかけたというものである。
(2)宅配便荷物をエックス線検査にかけると,その射影を見ることにより,内容物の形状や材質について窺い知ることが可能になる。
 このような方法は,捜査機関が,運送中の宅配便荷物について,封を開披することなく,〔1〕目視して外観を見分する,〔2〕寸法や重量を測定する,〔3〕荷送伝票の記載を読んで荷送人・荷受人の住所氏名等や内容物として記載された品名を知るなどの方法で調査するのとは性質を異にし,内容物の形状や材質について窺い知ることが可能になるという点で,荷送人・荷受人の私的な領域に一歩踏み込むものである。
 荷送人及び荷受人が当該荷物に関し本件のようなエックス線検査が実施されようとしていることを知った場合,これを承諾しないことも予想されるところ,そのような機会を与えずに荷物をエックス線検査にかけることは,その程度はともかくとして,荷送人・荷受人のプライバシー等を侵害するものであることは否定できない。
しかし,本件によるエックス線検査による方法は,その射影により内容物の形状や材質を窺い知ることができるだけで,内容物が具体的にどのようなものであるかを特定することは到底不可能である。したがって,この方法が荷送人・荷受人のプライバシー等を侵害するものであるとしても,その程度は極めて軽度のものにとどまる。荷物を開披した上で内容物を見分した場合に荷送人・荷受人のプライバシー等が侵害されるのに比べれば,格段の差があるといわなければならない。
 以上によれば,本件のエックス線検査による方法は,刑事訴訟法197条ただし書にいう「強制の処分」に属するものではなく,捜査機関がいわゆる任意捜査として実施しうるものというべきである。

(3)もちろん,任意捜査であっても,荷送人・荷受人のプライバシー等を侵害する可能性があるわけであるから,その捜査方法を用いることが必要であるとされた具体的な状況を検討して,真に相当であると認められる限度においてのみ,これを用いることが許されるものと考える。
 本件については,上記の捜査の経過で認定したとおりである。すなわち,捜査官としては,甲野会から覚せい剤を譲り受けたと供述する者がいたことから,覚せい剤取締法違反を嫌疑として,有限会社甲野に対する捜査を開始したのであるが,〔1〕事務所付近の内偵により,事務所に自動車で乗り付けた者に対し,事務所関係者が封筒を渡すことが多数回あり,覚せい剤等の取引を行っているのではないかという疑いが生じ,また,〔2〕覚せい剤事犯に関係した者の口座に,甲野事務所従業員(春野)が多額の入金をしていたことから,これは覚せい剤代金の振込みではないかと考えられ,〔3〕覚せい剤営利目的所持で逮捕された者が,「「大阪のB組」に対し,宅配便で覚せい剤を讓渡していた」旨供述し,同人の所持する携帯電話のメモリーに「甲野,B組」と登録されていたことから,有限会社甲野が,宅配便により,覚せい剤を仕入れているのではないかと考えられ,更に,有限会社甲野宛の宅配便を調査したところ,〔4〕同一人と思しき者から,森本吾平なる者に対する宅配便が多数送られていたことがわかったというのである。
 これらによれば,有限会社甲野の事務所の関係者が,宅配便により覚せい剤の送付を受けている嫌疑が相当深まっていたということができる。その事実を解明する方法としては,エックス線検査を実施し,その射影から内容物の形状・材質を窺い知り,それが覚せい剤様の物であることが窺われた場合には,更なる捜査(差押等)を行うというのが適切であり,他に有効な方法があったということはできない。また,ある特定の者(夏川)から有限会社甲野の住所に送られた荷物に限ってエックス線検査を実施し,宛先が「有限会社甲野の森本吾平」以外の宅配便で嫌疑となっている覚せい剤様の物が映らなかった後は,「森本吾平」宛の宅配便に限ってエックス線検査を実施しているのであって,捜査機関において,検査の対象を極力限定しようとの配慮が見られる。
 以上を総合すれば,エックス線検査を実施しようとした時点において,有限会社甲野の事務所関係者らが宅配便による大規模な覚せい剤譲受けに関与しているとの嫌疑があり,エックス線検査の実施による荷送人・荷受人のプライバシー等の侵害の程度がそれほど高くないのに対し,この方法によらなければ,大規模な覚せい剤譲受け事犯の真相を解明し,更なる証拠を収集して,犯人検挙に至るということが困難であるという状況下において,本件のエックス線検査が行われたものである。また,その実施方法自体に不相当と思われる点はない。
(4)したがって,本件のエックス線検査による捜査方法は任意捜査として許されるものである。本件において,エックス線検査を実施したことは違法ではないから,これによる証拠が違法収集証拠であり,各証拠の証拠能力を否定するべきであるとする弁護人の主張は理由がない」

強調・アンダーライン部分の認定の仕方に注目です。
なお、この判決は任意捜査の限界の規範について、

「もちろん,任意捜査であっても,荷送人・荷受人のプライバシー等を侵害する可能性があるわけであるから,その捜査方法を用いることが必要であるとされた具体的な状況を検討して,真に相当であると認められる限度においてのみ,これを用いることが許されるものと考える」

としています。
任意捜査と強制捜査の区別を扱ったS51決定とほぼ同じ規範ですが、上記大阪地裁判決の規範に、緊急性は入っていません。必要性・相当性のみを審査しています。
緊急性があるから必要性があると言えるのであり、必要性・緊急性は、同一要件と考えてよいのかもしれません。
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by espans | 2008-04-21 19:36  

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