違法収集証拠排除法則における「同一目的・直接利用」の基準

違法収集証拠排除法則に関連して、「違法性の承継」に関する2つの代表判例があります。

最判S61・4・25刑集40・3・215LEX/DB27803900(百選66事件)
「本件においては、被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続と採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である」

上記判決は、「同一目的」・「直接利用」アプローチと呼ばれます。司法試験の受験生の方で、違法性の承継に関して、この基準を使っている人がおられると思います(ただし、答案で使用する際には、単に基準のみならず、理由付けも必要です)。
ところが、最高裁は先ほど説明した平成15年判決で、同一目的・直接利用という基準に言及しませんでした。判決は次のように言います。

最判H15・2・14刑集57・2・121LEX/DB28085189(百選67事件)
「本件採尿は,本件逮捕の当日にされたものであり,その尿は,上記のとおり重大な違法があると評価される本件逮捕と密接な関連を有する証拠であるというべきである。また,その鑑定書も,同様な評価を与えられるべきものである」

平成15年判決は、「密接関連」アプローチと呼ばれるものです。
それでは、昭和61年判決と、平成15年判決の関係をどのように理解すべきでしょうか。

以下の記事が参考になります。

古江頼隆「演習」法学教室330号177頁
教員:ところで、大津覚せい剤判決の呈示する『関連性』『密接な関連性』の要件と『同一目的・直接利用』基準の関係はどう理解すべきなのかな。
Bさん:『同一目的』『直接利用』を2つとも掲げていたのは、実は昭和61年判決だけで、その後の昭和63年決定(昭和63年9月16日決定刑集42巻7号1051頁-ESP補足)、平成7年決定(平成7年5月30日決定刑集49巻5号703頁-ESP補足)は、当該事案では同一目的といえるはずなのに『直接利用』だけで『同一目的』には何ら言及していませんし、大津覚せい剤判決は『同一目的』はおろか『直接利用』基準さえも明示していません。『同一目的・直接利用』基準は、先行手続と後行手続との『関連性』(因果関係)を判断するためのメルクマールの1つであって、要件事実そのものではなかったと理解すべきなのでしょうね(カッコ内省略-ESP)。
教員:そうだね。最高裁が、依然として『違法性の承継』論を捨てていないとすると、大津覚せい剤判決の枠組を組み入れた枠組判断は、第1次段階判断基準として、①違法な先行行為と後行手続との間に『関連性』があれば、先行手続の違法性の程度が後行手続の適法性判断に当たって考慮されることになり、これにより後行手続が違法性を帯びるときは、第2段階判断に進み、②後行手続について『違法の重大性』(令状主義の精神を没却するような重大な違法)と『排除の相当性』を検討することになるだろうね。そして、大津覚せい剤判決のいう『密接な関連性』要件は、違法な先行手続と後行手続(それにより獲得された証拠)との間に『密接な関連性』が認められれば、上記の第1段階判断において違法性は当然に承継されて後行手続は違法性を帯びるのみならず、第2段階判断の『令状主義の精神を没却するような重大な違法』の要件も、先行手続がこれに当たれば後行手続も当然にこの要件を充足することとなるほか、『排除の相当性』要件も原則として肯定できることになるだろう(カッコ内省略-ESP)」

また、以下の記事でも同様の指摘がされています(既に当blogで紹介済み)。

大澤裕=杉田宗久「対話で学ぶ刑訴法判例 第12回違法収集証拠の排除」法学教室328号76頁。
<先行手続の違法と証拠の証拠能力>
大澤 このように本件の場合には、逮捕に重大な違法があったとされたわけですが、その結果として証拠能力が否定されたのは、逮捕後の身柄拘束の間に被疑者から採取された尿の鑑定書でした。証拠収集手続そのものではなく、それに先行する手続に違法がある場合であり、そのような場合に、証拠の証拠能力がどのように判断されるのかという問題を含んでいたわけです。
 この点で、ホン判決がどのような判断方法を採ったかと申しますと、重大な違法の有無は、先行手続である逮捕について判断したうえ、違法な先行手続と「密接に関連する証拠を許容することは、将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認めれる」として尿鑑定書の証拠能力を否定しました。
 ご承知のとおり、この問題については、昭和61年の最高裁判決(最判昭和61・4・25刑集40巻3号215頁)があり、そこでは「同一目的」と「直接利用」の関係があるときに、先行手続の違法が後に証拠収集手続に承継され、そのような違法を承継した証拠収集手続について重大な違法の有無が判断されるという枠組みが採られていました。本判決の判断方法は、このような従来の判例が採ってきた判断方法とは異なるようにも見えますが、いかがでしょうか?
杉田 従前の判例が「同一目的」「直接利用」の関係にある場合に先行手続の違法が証拠手続に承継される、と理解する考え方もあるのですが、従前の最高裁判例がそこまで要求していたかどうかは評価が分かれるところではないかと思います。少なくとも「直接利用」ということは、昭和61年判決の後の判例も繰り返し言及しているところでありますが、「同一目的」について明示的に言及しているのは、昭和61年判決のみだと思います。
 もともと昭和61年判決の担当調査官は、「同一目的」というのはさほど厳格に解する必要はなく、抽象的に犯罪捜査のため、あるいは証拠収集のためといった程度で足りるのではないか、また、「直接利用」という点は、先行手続によってもたらされた事実状態を利用して、あるいはその影響があるもとでという意味に解してよいのではないかと述べていたところであり(松浦繁『最判解刑事篇昭和61年度』74頁)、それほど厳格な基準ではなかったはずです。これらの「同一目的」「直接利用」の概念は、先行手続と後行証拠収集手続との因果性の強弱の1つの判断要素にすぎないと見るのが妥当ではないかと思います。
 基本的に、違法収集証拠の判例は、昭和53年判決を除けば、いずれも事例判例ですので、判例性がどこまであるのか疑問ですが、あえて判例性を見いだすなら、昭和61年判決に関しては、「後行の証拠収集手続きが先行手続を利用して行われている限り、証拠収集手続の適法性の評価に当たっては、先行手続に存する違法の有無・程度を考慮すべきである」という限度ではなかったかと思います。そうであるとすれば、本判決とそれ以前の判決とで、判断の中核部分において、それほど決定的な違いはないという結論になるのではないでしょうか
※アンダーライン、強調はESPによる。

以上の記事からすると、「同一目的・直接利用」は判断要素ではあるものの、基準そのものではない、ということになります。

以下は、ESPによる整理。
違法性の承継の直接の基準としては「関連性」であり、その関連性をどのような要素で判断するのかが大切となります。その意味で、同一目的・直接利用タイプと、密接関連性基準を使い分ける、という考え方は採用する必要がないといえます。

新司法試験のような長文の事例問題にあたっては、まずどの手続に違法性があるのかを丁寧に分析した上で(ここで間違えると、問題の所在を間違えます)、違法性の承継の問題であると判断したならば、

1.当該証拠の証拠収集手続自体を「独立にみた場合」は、適法である旨を指摘した上で、
2.違法性の承継を認める理由付けを説明し、
3.自己が採用する違法性の承継についての判断基準をあげ、
4.あてはめをする

という検討プロセスになると思います。
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by espans | 2008-02-19 19:24  

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