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藤田広美『講義 民事訴訟』について

藤田広美『講義 民事訴訟』(東京大学出版会)
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さすが元裁判官の実務家、かつ、裁判所書記官研修所監修『民事訴訟法講議案』の著者だけあって、手続の基本パターンの解説がしっかりされています。

研究者による基本書では、さらっと抽象的に書いてあることが、具体例と共に書かれているので、「ああ、なるほど」と納得したところも、多数あります。個人的な印象ですが、既判力の説明のところ(364頁以下)は、具体例と共に、かなり丁寧で、分かりやすいと思いました。

細かい論点・判例は捨象されているので、全体像を見失うことなく、民事手続の基本パターンを理解するのに最適です。

しかし!

いくつか気になった点もあります。

1.実務家の本にしては、「手続保障」という得体の知れない概念が多数登場しているのが気になりました。「手続保障」は条文上の文言でもありませんし、使うのであれば、手続保障の具体的中身を明確にして頂きたかったです。

2.上訴(控訴・上告)の説明がほとんどありません。最初は落丁かと思いましたが、そうではないようです(目次で確認しましたが、やはりありませんでした)。実務家の本ですので、むしろ上訴は丁寧に書かれているのかと思いましたが、ほとんどありませんでした。ですので、上訴の部分については、別の本で補う必要があります。

3.民法、要件事実とのリンクがあり、それがこの本のわかりやすさの反面、逆を言えば、民法、要件事実の一定の理解が前提にされています。それゆえ、民法、要件事実の理解が十分ではない人が読むのは、若干つらいかもしれません。ただ、民事訴訟法の理解には、一定の民法の理解が前提となるので、やむを得ないところだと思いますが。

※ただし、これは民法、要件事実を「完全に」理解してから読むべき、という意味ではありません。民事訴訟法の学習にとって、民法、要件事実を完全に理解している必要まではないからです。一通り、普通に民法、要件事実を学習している人は、同書を読んでも、それほどつらくないでしょうし、また、読んでいて民法、要件事実の理解が足りないな、と思った場合は、民法、要件事実の勉強に戻ればいいだけの話だと思います。

以上、3点ほど気になった点を述べてきましたが、そうであっても、この本の評価が決定的に下がる、という意味ではありません。

どちらにせよ、法科大学院生の方や、新司法試験受験生の方で、将来実務法曹を目指される方が読んでおいて損のない一冊だと思います。

※既に説明した通り、この本は、裁判所書記官研修所監修『民事訴訟法講議案』の著者によるものです。そのため、既に『講義案』を読んでいる人が、改めてこの本を読む必要があるかは、留保したいと思います。

by espans | 2008-01-27 08:06  

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