無罪判決後の勾留

事件番号 平成19(し)369
事件名 勾留の裁判に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件
裁判年月日 平成19年12月13日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成19(け)24
原審裁判年月日 平成19年09月28日

判示事項
裁判要旨 第1審裁判所が犯罪の証明がないとして無罪判決を言い渡した場合に,控訴裁判所が被告人を勾留するについては,刑訴法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求される。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071214150505.pdf

「主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
本件は,覚せい剤取締法違反等の事実により勾留のまま地方裁判所に起訴された被告人につき,第1審裁判所が,犯罪の証明がないとして無罪判決(以下「本件無罪判決」という。)を言い渡し,刑訴法345条の規定により勾留状が失効したところ,検察官の控訴を受けた控訴裁判所において,職権で,被告人を再度勾留(以下「本件再勾留」という。)し,これに対して弁護人が異議を申し立てたものの,棄却されたことから,更に特別抗告に及んでいる事案である。被告人は,外国人であり,本件無罪判決により釈放された際,本邦の在留資格を有しなかったため,入国管理局に収容されて退去強制手続が進められていたが,本件再勾留により拘置所に身柄を移されたものである。
所論は,上記被告事件の訴訟記録が控訴裁判所に到達した日の翌日に,本件再勾留がされたことを指摘しつつ,第1審の無罪判決後に控訴裁判所が被告人を勾留できるのは,少なくとも,当事者の主張,証拠,公判調書等の第1審事件記録につき十分な調査を行った上で,第1審の無罪判決の理由について慎重に検討した結果,第1審判決を破棄して有罪とすることが予想される場合に限られると解すべきであるのに,原決定はこのような解釈によることなく,控訴裁判所が,慎重な検討のための時間的余裕のないままに,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があると即断したことを是認し,かつ,本件が「第1審判決を破棄して有罪とすることが予想される場合」に当たらないことも明らかなのに,これを看過しているなどとして,本件再勾留が違法であると主張する。
そこで検討すると,第1審裁判所において被告人が犯罪の証明がないことを理由として無罪判決を受けた場合であっても,控訴裁判所は,その審理の段階を問わず,職権により,その被告人を勾留することが許され,必ずしも新たな証拠の取調べを必要とするものではないことは,当裁判所の判例(最高裁平成12年(し)第94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁)が示すとおりである。しかし,刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である。そして,このように解しても,上記判例の趣旨を敷えんする範囲内のものであって,これと抵触するものではないというべきである。
これを本件について見るに,原決定は,記録により,本件無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重に検討しても,被告人が,上記起訴に係る覚せい剤取締法違反等の罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められるとして本件再勾留を是認したものと理解でき,その結論は,相当として是認することができる。
よって,刑訴法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官田原睦夫,同近藤崇晴の各補足意見がある」

強調・アンダーライン部分が注目される判断で、無罪判決後の勾留に一定の限界を付されることを最高裁が示しました。
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by espans | 2007-12-15 15:44  

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