なぜ、不法行為責任を認めなかったのか?

このblogでも紹介した、建築者への不法行為責任に関する平成19年7月6日最高裁判決。
破棄判決ですので、原審は建築業者の不法行為責任を否定したわけです。

では、なぜ、原審は不法行為責任を認めなかったのか?

原判決は公刊物に登載されていました。
福岡高裁平成16年12月16日判決(判タ1180・209LEX/DB28101377)。
「(1)請負の目的物に瑕疵(施工によるもののみならず,設計監理によるものを含む。)がある場合,注文者は請負人に対して民法634条所定の瑕疵担保責任を追及するにとどまらず,これとは別個に,不法行為責任をも追及することができるかというのは一個の問題である。さらに,その延長線上には,そもそも請負人は当該目的物の所有者等に対して不法行為責任を負うのかという問題がある。
 この点につき,原審は,「建築請負人並びに設計・工事監理の委任ないし請負契約を締結した受任者又は設計・工事監理請負人は,それらの契約に基づいて,請負人としての瑕疵担保責任や受任者としての債務不履行責任を負うが,同時に,これらの者の行為が一般不法行為の成立要件(違法性・故意又は過失・損害の発生・因果関係)を充たす限り,不法行為に基づく損害賠償請求権が発生し,」(原判決40枚目16行目から21行目),両責任は請求権競合する(同41枚目20行目)ものとしている。
(2)確かに不法行為責任は,瑕疵担保責任等の契約責任とは制度趣旨を異にするが,本来瑕疵担保責任の範疇で律せられるべき分野において,安易に不法行為責任を認めることは,法が瑕疵担保責任制度を定めた趣旨を没却することになりかねない。即ち,民法637条,638条は,瑕疵担保責任の存続期間を定めており(本件のような建物建築の瑕疵については,その存続期間は原則として引渡後5年ないし10年),さらに契約当事者間の特約によって,責任の存続期間を一定の限度で伸長させたり(同法639条),責任そのものを免除すること(同法640条)も認められている。しかし,この問題に不法行為責任の追及を持ち込むときは,いかに不法行為の成立要件として請負人の故意ないし過失を要するからといって,法が瑕疵担保責任の存続期間について契約法理に見合った様々な規定を置いた趣旨を没却し,請負人の責任が無限定に広がるおそれを生ずる。また,請負人が不法行為責任を負うべきものとすると,請負人が責任を負担する相手方の範囲も無限定に広がって,請負人は著しく不安定な地位に置かれることになる(本件も,請負の目的物の買受人が請負人に対して不法行為責任を追及した事案である。)。一審原告らは,この点につき,「現代社会における建物は商品として建築・作出され,注文者の以後にも転々譲渡されることがあるから,(中略)一般国民に対しても(義務を)負っているというべきである」などと主張するが,そのような事案においては,瑕疵ある目的物の買受人は,請負人に対して責任を追及できなくとも,売主に対して債務不履行責任又は民法570条所定の瑕疵担保責任等を追及することができるのであるから,その保護に欠けることはないのである。一審原告らの上記主張に左袒することはできない。
(3)以上の考察に照らすと,請負の目的物に瑕疵があるからといって,当然に不法行為の成立が問題になるわけではなく,その違法性が強度である場合,例えば,請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵ある目的物を製作した場合や,瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯びる場合,瑕疵の程度・内容が重大で,目的物の存在自体が社会的に危険な状態である場合等に限って,不法行為責任が成立する余地が出てくるものというべきである」

請負契約における瑕疵担保責任規定との整合性に、重きを置いた判断と言えます。
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by espans | 2007-07-10 19:24  

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